ポットスティルを上下対照にデザインしたドアノブのある重厚なドアを開くと、その向こうにもう一枚扉がある。そしてその先にあったのは、オーク材で設えられた落ち着きのある静謐な空間だった。黒のベストに蝶ネクタイのバーテンダーが二人、カウンターの中から笑顔で迎えてくれた。背中には天井まで作られた棚に、これでもかとウィスキーの瓶が並ぶ。どこにも隙がなく、見事なほどの大人の空間だ。とはいえ、緊張を強いられるトゲトゲしさはどこにもない。マスターである品野さんの人柄が、インテリアの木の温もりと相まって、穏やかで温かみのある空間を演出している。ウィスキーを飲むぞ、という気にしてくれる。

　バー・オーガスタ・ターロギーの売りは、店名の由来ともなったスコッチウィスキーとオリジナルカクテル。中でも、カクテル・オーガスタ・セブンは、ディズニーシーでも供されたことのあるほどメジャーとなっているレシピ。パッションフルーツ感が効いている美味しいフルーツカクテルだ。モスコミュールは波動熟成したウォッカで作る生ジンジャーの効いた本格派。スコッチウィスキー、バーボンなどの品揃えはマニアでも納得するはずだ。

　店のオープンは1987 年というから、30年の歴史がある。茶屋町、中崎町に人が集まり始めた頃だろうか。よくぞその時代にここまでのオーセンティックなバーを開業したものだと思う。2007 年から喫煙者の減少を見越して分煙を導入後、2009 年から完全禁煙にしたそうだ。当初はシガーバーとして営業していたのだが、元々タバコを吸わないマスターの咳が止まらなくなり、禁煙を考え始めたらしい。家族にも店のスタッフにも売り上げが落ちると心配され大反対されたものの、健康が第一と説得し、分煙を経て完全禁煙化を敢行。最初の半年は売り上げが減り続けたものの、その後持ち直し、翌年には前年を上回る売り上げになったそうである。

　禁煙表示をお店の前にしていないこともあって、いまだにカウンターに座るなり、ポケットからタバコの箱を取り出すお客もいるそうで、その時は「禁煙なんです」では角が立つので、「お外でお願いします」と灰皿を手渡すんだとか。見事な大人の客対応である。

　ターロギーでは、スタッフの採用条件に「禁煙」というのがある。今年入ったスタッフは採用決定すると同時に禁煙を決意したそうである。ドリンクの味、インテリアの空気感、マスターの人柄、いずれをとってもプロが創り出す心地よい時間が、間違いなくここにはある。彼はどうしてもここで働きたかったのだ。