Quemlin Pick Up vol.5

美味しいケムランに、ようこそ!

丁子屋

静岡県静岡市駿河区丸子7丁目10-10 TEL 054-258-1066
営業時間/ 11:00 ~ 19:00
定休日/木曜日(毎月末 水曜日・木曜日のみ連休)

400年以上、伝統の味を守り続ける静岡の老舗とろろ汁屋「丁子屋」。
澄んだ空気の歴史空間で味わうとろろ汁は、ここだけでしか出会えない滋味。

 静岡市駿河区にある東海道五十三次の宿場・丸子(まりこ)は、豊かな自然に囲まれた山間の町。自然薯の発育に適していたことから、これを擦り下ろして作るとろろ汁がいつしか東海道を行く旅人に振る舞われるようになったという。かの松尾芭蕉、十返舎一九、歌川広重の作中にも登場する「丸子のとろろ汁」は、その後長きに渡って人々に愛される丸子宿の名物となった。

 そんな伝統の味わいを、400年以上守り続けているのが老舗とろろ汁屋・丁子屋だ。もともと農業の合間に営まれる細々とした茶店だった丁子屋は、12代・信夫さんによってとろろ汁を看板メニューとした現在の姿に生まれ変わった。一見、ひとつの大きな家屋に見える店舗は、江戸・明治・大正・昭和と時代を重ねた幾つかの古民家の集合体。シンボルである茅葺屋根を含め、特別な歴史空間で味わうとろろ汁は、他では決して味わえない格別の滋味である。

 とろろ汁の原料・自然薯は、土が持つ本来の力を活用する「生態系農法」によって地元・静岡の農家で作られたもの。これを擦り下ろしたものに、添加物を一切使わない自家製の味噌、鰹だし、卵を加えて汁状に伸ばす。一般的な白いとろろ汁と違い、自然薯を使った丁子屋のとろろ汁はほんのり茶褐色。これをふっくら炊き上げた麦飯にたっぷりかけ、「ザーザー」と音を立てながら流し込むのが丁子屋流の食べ方だ。山そのものを喰らうかのような自然薯の豊かな味わいと香りが口いっぱいに広がると、次の瞬間とろろ汁は滑らかに喉元を滑り落ちていく。どんなに少食な人でも2杯は軽くイケてしまうこの吸収力こそ、丁子屋とろろ汁の真骨頂だ。

 創業以来、喫煙可だった丁子屋がはじめて「禁煙室」を設けたのは20年前のこと。女性客

を中心に部屋の利用者が増え、2年後には店舗内全面禁煙に踏み切った。「お客さんが減るのでは」という13代・馨さんの心配は杞憂に終わり、売上・客足ともに以前と変わらぬ水準をキープ。常連客の愛煙家が、その後も変わらず来店してくれたことが嬉しかったと馨さんは語る。畳敷きの木造家屋のため、「思わぬ煙草の不始末が火事に繋がらないかと心配」していたそうだが、現在はその不安もなくなった。

 食事はもちろん、歴史ある建物が醸し出す雰囲気、サービス、展示物のすべてがおもてなしと考える丁子屋にとって、煙らないキレイな空気もまた大切なおもてなしのひとつ。来店されるすべての人に良い思い出の1ページを提供するため、東海道五十三次・丸子宿のオアシスとしてこれからも新たな歴史を重ねていく。