ケムラン文京区×坂ミシュラン Quemlin BunkyoCity Column

文京区は坂の多い街。
そこで、坂専門家(坂ミシュラン・沢村耕太さん)と区民特派員・白鳥スワンさんと一緒に区内の坂およびその近くのケムラン店を探訪してみました。

第一回根津・千駄木ナイトツアー

:坂ミシュラン・沢村耕太さん :区民特派員・白鳥スワンさん :ケムラン管理人

初めまして、坂ミシュランというサイトをやっております。

「ケムラン文京区」の坂特集ということでお声がけをいただき、文京区の坂めぐりをしてまいりました。
文京区は言わずと知れた坂の街。名前の付いた坂だけでも120近くあります。

そんな中今回選んだのは根津・千駄木エリア。その名も「動坂食堂」がスタートです。
このお店は文字通り「動坂」という坂のふもとにあります。

アトリエ坂
動坂食堂

こちらのお店は、食堂といっても、昔のそれとは異なり、室内は明るく清潔。
常連さんらしきお客さんだけでなく、家族連れ、学生さん、そしておひとり様も楽しく食事をとっています。
メニューは多彩。定番の定食はもとより、和え物、煮物、焼き物、揚げ物、酢の物、ご飯物、汁物と、主役も脇役も勢揃い。どんなお客さんでも満足できる無敵のラインナップです。

定食物でお腹をみたすという目的だけでなく、私たちのようなちょっとアテとビールを楽しみたいという飲兵衛にもぴったりですね。

動坂食堂は9年前に禁煙化。保健所の指導や時代の変遷も鑑みて禁煙に踏み切ったとのことですが、もともとのきっかけは喫煙者の常連さんが禁煙にしたらと提案してきたからだそうです。これでお客さんが減るかもしれないと一抹の不安はあったようですが、杞憂に終わりました。
私たちが平日の18時過ぎにお邪魔したときにはほぼ満席、その後は代わる代わるお客さんがやってきたことから、変わらぬ人気が伺えました。
なお、動坂食堂に禁煙を提案した件の常連さん、数年前にとうとう禁煙に踏み切ったそうです。

懐かしの名店が禁煙になっていてうれしい限りです。さて、坂の話に戻りましょう。

坂の楽しみ方はいくつかありまして、まずは「傾斜」つまり角度です。
10度(%で表現すると20%弱)を超えたあたりから坂らしさが出てきて自転車で上がるのもきつくなります(注)。
そんな「傾斜」を楽しめるのが千駄木駅のすぐ西にあるアトリエ坂です。角度は11度(19%)、まずまずの傾斜です。

注)傾斜の単位のうち「度」は分度器で測った角度、「%」は100メートル進んで何メートル上がるかを示します。

アトリエ坂
千駄木駅のすぐ西にあるアトリエ坂

「傾斜」の面白さは説明不要だと思います。急な坂を下から見上げるだけで童心に帰ってワクワクしますし、自転車で上りきってやろうという闘志が湧いてきます。

写真では少しわかりにくいですが、傾斜がある程度急になると路面がアスファルトではなく〇形の滑り止め付きコンクリートになります。これがあると写真だけで急な坂だとわかります。

次の楽しみ方は「由緒」です。さきほどの「傾斜」が体育会系だとすれば、こちらは文化系です。坂の名前の由来や文学とのつながりをウンチク的に楽しむものです。

今回めぐった中では「タマヤ 根津店」近くにあるS坂。名前を聞いただけで由来が気になってしまいますね
文字通りS字を描いていることから、森鴎外の小説『青年』で『Sの字をぞんざいに書いたように』と表現されたことからこの名前が付きました(別名新坂、権現坂)。

実際きれいなS字を描いていました。

アトリエ坂 タマヤ 根津店
左:「タマヤ 根津店」近くにあるS坂 右:タマヤ 根津店

タマヤさんは家の近くということもあり、以前から気になる存在でした。

タマヤ根津店は3階がビストロ、2階にはワインセラーがあり、各種ワインを小売価格で購入できます。購入したワインは持ち込み料(1500円)を支払えば、ビストロで味わうこともできます。私たちが訪れたときはビストロが満席だったので、2階の飲食スペースでワインに囲まれながら乾杯。ワイン好きにはたまらないですね。

三階のビストロは大勢のパーティ使用にも使えるようでしたね。おいしいワインはやはり禁煙環境で楽しみたいですよね。

さて、文京区在住だった森鴎外ですが、彼も坂好きだったようで、短編小説『鼠坂』はそのものずばり文京区の鼠坂を舞台にしていますし、小説『鴈』も文京区の無縁坂が舞台です。

ほかにめぐった坂では、「異人坂」=明治時代に東京大学のお雇い外国人教師の官舎があったこと、「動坂」=坂上に不動尊があったことが由来になっています。変わったところでは「弥生坂」。近くで土器が発見されたことから「弥生式土器」の語源になっています。

3つ目の楽しみ方は「美観」です。これは文字通り坂のビジュアル的な美しさを愛でるもので、やや上級者向けかもしれません。さきほどのS坂のようなきれいなカーブを描く坂が好きな方もいらっしゃるでしょうし、上で紹介したアトリエ坂のようにまっすぐで長い一本坂が好きな方もいらっしゃるでしょう。

私は個人的にひっそりとした雰囲気の坂が好きでして、ここでは「蕎心」近くにあるお化け階段を紹介します。名前からして怖いですが、昼でも薄暗くホントにお化けが出そうです。今回大勢で行ったからよかったですが、夜一人で行くのは相当度胸がいります。

お化け階段 蕎心
左:「蕎心」近くにあるお化け階段 右:蕎心

お化け階段の親戚ではないですが、文京区内には「幽霊坂」という名前の坂が2つ、「暗闇坂」(くらやみざか)という名前の坂も2つあります。坂は何かが出そうな場所にあるというのが定番なのかもしれません。

「蕎心」は家の近くということもあり、しばしばお邪魔しています。

こちらはオープン当初から禁煙ですが、平日・休日、昼夜を問わず、入店待ちができる人気店。夜は美味しい日本酒と上品な酒の肴が楽しめます。もちろん、シメはおそば。今回は淡雪という変わったおそばを注文しました。これは名古屋コーチンのたまごを泡立て、おそばに和えたもの。あまりのおいしさに家で真似てみましたが、再現はできませんでした。

東京に来ると蕎麦屋で飲みたいタイプなので、とてもうれしかったです。お蕎麦も日本酒もアテも最高でした。

さて、坂の最後の楽しみ方は「地形」です。文京区に坂が多いのは、いわゆる山の手の台地を川が削って何本もの谷があるからです。

今回めぐった坂はすべて、本郷台地という台地を東側の谷筋である不忍通りから上っています(不忍通り脇の地下には今も川が流れています)。

自然が何万年もかけて作った地形の上に人間が張りついて生活している。そんなロマンを感じるのも坂の醍醐味です。

以上、ケムラン文京区・坂ナイトツアーのご報告でした。

ブログでほかの坂も紹介しております。ぜひご覧ください。