ケムラン×コロナ対策:公開オンライン座談会
「飲食店における感染対策について」開催報告

  • 2021.10.25

オンライン座談会で作成したグラフィックレコーディング(クリックで拡大します)

新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店が感染症対策に取り組んでいる。
検温や手指消毒といった手頃な対策から、最近はテーブルにアクリル板を設置する店舗も増えてきた。
これらの対策は本当に有効なのだろうか。

3月30日、国際医療福祉大学教授で感染対策のスペシャリストである和田耕治氏などが登壇したオンライン座談会「飲食店における感染対策について」が開催された。主催したのは大阪医科薬科大学准教授の伊藤ゆり氏。そのほか、大阪大学助教の村木功氏、千房株式会社代表取締役社長の中井貫二氏、弊社・株式会社シンクロ・フードの細川晃が参加。飲食店の感染対策についてクロストークが行われた。

2021年05月11日 Foodist Media
飲食店のコロナ対策、注意すべきは「マイクロ飛沫感染」。アクリル板だけでは不十分? https://www.inshokuten.com/foodist/article/6095/ より許可を得て転載
座談会はオンラインで実施された

飲食店が注意したいのは「マイクロ飛沫感染」

新型コロナウイルスの感染者数が増加する中、飲食店利用における感染対策を今一度考えるべく開催された今回の座談会。まずは感染対策のスペシャリストで国際医療福祉大学教授の和田氏から、現在の感染状況や飲食店が気にかけておくべき感染対策について解説があった。

和田氏によれば、感染リスクが高まる場面は5つ。飲食店に関係するところでは、「飲酒を伴う懇親会」「大人数や長時間におよぶ飲食」「マスクなしでの会話」が挙げられる。

感染リスクが高まる「5つの場面」

これらの感染リスクについては、これまでも政府から注意が促されてきた。飲食店はもちろん、一般市民にも情報が定着しているだろう。実際に首都圏の一般市民3,239人へのアンケートでは、「大人数や長時間に及ぶ飲食は感染リスクが高いと思いますか?」という質問に対して、リスクを感じている人は「そう思う」「ややそう思う」の回答を合わせると92.3%にも上った。

ほとんどの人が大人数・長時間の飲食にリスクを感じている

飲食店の利用者もリスクをしっかりと認識しているように思える結果だが、和田氏は「細かい感染経路に関して理解している人は少ない」と語る。特に感染の大きな原因となっている「マイクロ飛沫感染」についての理解度の低さを問題視しているようだ。マイクロ飛沫感染とは、飛沫感染と空気感染の中間にあたるもの。エアコンの風などで空気中にマイクロ飛沫が流れ、5~7mの範囲であれば感染に及んでしまう。

「日本では主に接触感染・飛沫感染への対策はしていても、マイクロ飛沫感染への対策があまりできていないお店が多いです。しゃべっているとどうしても目に見えない飛沫が出てきます。1~3マイクロの、重力で下に落ちていかない小さな飛沫が流れていき、それを吸い込んで感染することもありえます。大きなクラスターが発生したときには、このマイクロ飛沫感染が起きていると考えられているんです」

例えば、以下の居酒屋でのクラスター事例では、エアコンの風によるマイクロ飛沫感染の様子がよくわかる。黒い「〇」が初発患者、赤い「〇」が感染してしまった客・従業員、そして白い「〇」が感染しなかった客だ。

ある居酒屋のクラスター事例。
初発者の頭上にエアコンがあり、その風の流れに乗ってマイクロ飛沫が矢印の方向へ広がり、感染した。
※加來浩器「アウトブレイク調査のススメ(第2版)」2021年(出版:防衛医学研究センター)より

この居酒屋は、店内の入口側にエアコンがあった。時期は11月で肌寒く、窓も締め切っていたとされ、感染者の飛沫が図のような流れにのって感染したと予想されている。

そのほか、近隣国である韓国や中国でも、マイクロ飛沫がエアコンの風で流れて感染した事例がニュースで取り上げられている。どれほど頻繁に起きているかははっきりとしていないというが、「ずっと会話をしているような場所ではこのような感染が起きているのだろうと予想できます」と和田氏。この解説から明らかであるように、特に会話が発生しやすい飲食店では、接触感染・飛沫感染への対策に加え、マイクロ飛沫感染への対策が欠かせないといえる。

解説を行ってくれた国際医療福祉大学教授・和田耕治氏

換気、黙食、客への呼びかけ……有効な感染防止対策は?

では具体的に、マイクロ飛沫感染の対策とは、どのようなことを行えばいいのだろうか。和田氏によれば、最も重要なのは換気すること。また、客に会話をできるだけ抑えてもらうことや、収容人数を調整することも大切だという。

実際に取り組みを行っている店舗や自治体もある。例えば、福岡のカレー店『マサラキッチン』が提案して話題となったのが、食事を静かに楽しんでもらう「黙食」。「感染リスクがかなり抑えられて、とても良いアイデアだと思います」と和田氏はいう。

あるいは、松戸市では客向けにポスターを作成。「料理を楽しみ 会話を控える」「飲みすぎない 長時間の利用は控える」などのメッセージを提示した。客に感染対策を直接お願いすることが難しい場合は、貼っておくだけで注意喚起になる。市全体で、感染が広がりにくい街づくりを行っている。

松戸市で使用されているポスター

アクリル板の置き方一つにも、注意が必要に

最近はアクリル板の設置や席数を間引くことで「密集・密接」を防ぐ飲食店が増えているが、こうした対策にはさらに工夫が必要だと和田氏は指摘する。

「家族や友人同士といった同じグループ内での感染を、店側の努力だけで防ぐことはほとんど不可能です。お客様側が体調が悪い方とは一緒に来ないなど、徹底していく必要があります。ただ、違うグループへの感染対策は店側にお願いしたいところ。一部ではお客様同士の感染を防ぐために個室化を止めようとする店舗もありましたが、個室化したほうが、ほかのグループへの感染を防げることもあります」

また、飲食店の対策としてありがちなテーブルの中心にアクリル板を置くことも、見直してほしいという。

「中心に置く場合は、同じグループ内での感染を避けることのみに機能します。ほかのグループへの感染を防ぐ場合はテーブルの側面にアクリル板を置いたほうが効果的。また、喋る頻度や空調に応じてアクリル板の位置を調整することも大切です。“とにかくアクリル板を置く”という習慣だけが増えたのは少し残念ですね。少しずつでいいので効果的な置き方が広まっていくといいなと思います」

この解説に対して、株式会社シンクロ・フード、プラットフォームグループ・マネージャーの細川より、比較的狭いスペースで営業を行う個人店の感染対策の難しさに触れ、「10坪~20坪で運営している個人店は、お客様同士の距離を保つことや、換気が難しい場合があります。小さな店でもできる感染症対策はありますか?」と質問。すると和田氏から以下の回答が得られた。

「混雑を避けるという意味では、ダイナミックプライシングを導入したり、テイクアウトやデリバリーを積極的に行って店内利用と分散させたりといった対策も重要になるのではと思います。新型コロナウイルスの影響はあと1~2年は続くと思われるので、飲食店に関わる皆で、できることを考えていく必要がありますね」

司会進行を務めた大阪医科薬科大学准教授で飲食店検索サービス「ケムラン」の管理人・伊藤ゆり氏

非接触の時代でも、客と店のつながりをつくる努力を

座談会の後半では、人気お好み焼き店『千房』を展開する千房株式会社の代表取締役社長・中井氏が、現在の店舗の営業状況や実際行っている感染対策を語った。中井氏が大切にしているのは、コロナ禍で希薄になりがちなコミュニケーションをしっかり取っていくことだという。

「食べ物を食べるだけなら家でもできます。でもやっぱり、多くの方にはコミュニケーションをとりたい、あそこで働いているスタッフに会いたい、仲のいい人と食事やお酒をしながら談話したいという思いがあるのではないでしょうか。我々はお好み焼き屋なので“お好みケーション”といっていますが、お好みケーションを取ってもらうために、雰囲気や空間づくりを大切にしています」

感染防止対策として大きなアクリル板を置いたり、従業員が全く顔の見えないマスクをするとなると、せっかくコミュニケーションを取りに来ている客と距離ができてしまう。「どうバランスを取ればいいのか、悩ましいところではあります」といい、模索しながら感染対策を打ち出しているという。

「ありがたいことに、お好み焼き屋は焼肉店などと同様、換気の設備は整っているので、そこに関してはお客様に安心していただけていると思います。あとは大阪の店舗で、近畿大学とコラボをした“近大マスク”を使用させていただいております。これは表情が見える透明のマウスシールドで、こうしたものを利用しつつ、お客様に楽しんでいただける空間づくりを心掛けています」

千房株式会社・代表取締役社長の中井貫二氏

コロナ禍は極力客と従業員の接触を避けることが重要とされているが、その中でも中井氏は、「今までにない接点を増やしていきたい」と意気込む。

「飲食業は、非効率的な部分が付加価値をつくる職業だと思います。例えばお水は、机の上にポットを置いておけば、お客様がご自身で注げますよね。ただ、それでは飲食店ならではの付加価値がない。従業員がお客様のところに行ってお水を注ぐことで、コミュニケーションが生まれます。今はまだまだお客様との接し方を模索中ですが、お客様もナーバスになっている方が多いので、気遣いしながら対応していきたいです」

これに対して大阪大学助教授で公衆衛生スペシャリストの村木氏は、飲食店だけでなく客側も楽しみ方を考えていくのが良いのでは、とコメント。

「コロナになってからあれをするな、これをするなという話がどうしても多くなってしまいますが、その中でどうコミュニケーションを増やしていくかという議論は大切ですよね。利用者側も、どうやって飲食店での食事を楽しみながら感染予防できるのかを考えていけたらと思います」

新型コロナウイルスとの戦いは長期に及び、まだまだ飲食店は苦しい戦いを強いられている。しかし、そんな中でもできるだけ安心して来店してもらうためには、感染予防対策は欠かせない。ぜひ今回のオンライン座談会を参考に、自店舗に合った感染予防対策に取り組んでほしい。

その他、オンライン座談会の様子です(クリックで拡大します)