コロナ禍の飲食店 受動喫煙対策Bookを公開しました

  • 2023.04.12

改正健康増進法の施行から三年。
飲食店の禁煙化は進んだのか?
禁煙化が難しいとされるエリアや業種の禁煙化のストーリーを紹介します。

そして、今後の飲食店のコロナ対策はどうする?専門家のメッセージも紹介します。

改正健康増進法の受動喫煙対策について正しく学び、お店を禁煙にしてみませんか?

※この冊子は厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業
「喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究」班(研究代表者・大和 浩)
の研究の一環として制作されました。

改正健康増進法の施行により、飲食店の禁煙化はどの程度進んだか

受動喫煙に関する法律について

 受動喫煙とは、周りの人が吸うたばこの煙、たばこを吸う人が吐き出した煙を吸い込んでしまうことである。たばこの煙には有害な物質が多く含まれているため、望まない受動喫煙により、たばこを吸わない人であっても、有害な物質を吸い込む危険がある。
 この望まない受動喫煙から皆さんを守るために、2020年4月に改正健康増進法が施行された。この法律改正では、施設の種類・場所に応じた受動喫煙対策が定められており、学校や病院、行政施設は敷地内禁煙に、飲食店は「原則屋内禁煙」となっている。
 注意して欲しいこととして、飲食店の場合は全面禁煙ではない。例外的に屋内で喫煙可能な飲食店が存在する。ただ、喫煙可能な環境が飲食店内にある場合、20歳未満の人は喫煙可能エリアへの立ち入りが禁じられており、これはアルバイトで働いている従業員も同様である。
 室内に喫煙可能な場所がある飲食店は、店頭に以下のような、標識の掲示が義務付けられている。
 原則屋内禁煙となったとはいえ、屋内で喫煙可能な場所がある飲食店は数多く存在する。この法律改正によって、飲食店の禁煙化はどの程度進んだのだろうか?望まない受動喫煙から、飲食店で働く皆さんの健康が守られる環境になっているのだろうか?

飲食店での禁煙化は進んだ?

東京都・大阪府・青森県で営業する飲食店にアンケートを配布し、法律の改正前、改正直後、改正 1 年後の飲食店内の喫煙状況を調べた。法律による規制を受けない小規模な飲食店=標識の掲示により、分煙・喫煙が選択できる飲食店のうち、屋内が全面禁煙の飲食店は、改正前:50.4% (140/278)⇒改正直後:68.7%(191/278)⇒改正 1年後:71.9%(200/278)と年々増加していた。

お酒を提供する飲食店では禁煙化が進みにくい…

 法律の改正により飲食店の禁煙化は進んでいるようである。では、飲食店の業種によって、禁煙化の進み具合に違いはあるのだろうか?
 食事をメインで提供する飲食店、酒類をメインで提供する飲食店を分けて、法律改正前後での、店内の喫煙状況の変化を調べてみた。法律による規制を受けない小規模な飲食店のうち、酒類をメインで提供する飲食店の64.8%(46/71)が、法律改正の前後で一貫して分煙・喫煙可能を継続していた。また法律による規制を受ける飲食店=本来全店舗禁煙化が必要な飲食店についても、酒類をメインで提供する飲食店の45.9%(17/37)が法律に反して分煙・喫煙を継続している可能性があった。
 酒類をメインの提供する飲食店で禁煙化が進みにくい背景には、禁煙化により客数や売り上げが減少する懸念があるかもしれない。また特に、酒類を提供するバーやパブなどは、法律による規制を受けない小規模な飲食店に該当する可能性が高い。これらの店舗は標識の掲示により分煙・喫煙を自由に選ぶことが出来るため、積極的な禁煙化が進みにくい可能性がある。

今後の受動喫煙対策を考える上で大切なこと

 今回の法律改正の主な目的は、望まない受動喫煙から人々を守ること、である。しかし残念なことに、飲食店には数多くの例外があり、いまだ屋内で喫煙可能な環境が多く残っている。喫煙可能な環境が残っている以上、望まない受動喫煙を完全に防ぐことはできない。たばこを吸わないお客さんはもちろん、喫煙室の清掃をする人々や、喫煙可能な環境がある飲食店内で働く従業員の健康が脅かされる可能性がある。
何が禁煙化を妨げるハードルとなるのか、禁煙化に向けてどんな支援や環境整備が必要なのかを、飲食店の皆さんと考えていきたい。そして将来的には、望まない受動喫煙をどの飲食店でも防げるような、包括的な法律が整備されることを期待している。

禁煙化で働く人の健康を守れ、かつ来店客の過ごし方にも嬉しい変化が(CASE1 新宿フリゴ)

禁煙化にあたってはSNSでの告知のほか、店内や店外のポップで「全席禁煙」と周知している画像
禁煙化にあたってはSNSでの告知のほか、店内や店外のポップで「全席禁煙」と周知

 「お酒と喫煙って、やっぱり切り離せないと思うんですよ」と打ち明けるのは新宿駅南口、甲州街道沿いでベルギービール専門店『フリゴ』の店長を務める荒木健一郎氏。お酒が主体の店ということもあり、以前は全席喫煙可能で、来店客の3~4割が喫煙者だった。アイリッシュパブという雄々しいイメージ、そして客層は30代後半~50代の男性が多いというのも喫煙者の割合が比較的高かった理由かもしれない。週末ともなると、タバコの吸い殻がトマト缶いっぱいになるほど喫煙者が多かった。しかしここ5~10年ほどで、客の声にも変化が見られたという。
 「『横の人がタバコを吸っているからこの席は嫌です』とか『タバコの臭いが漂わない場所はどこですか』という副流煙を嫌う声が結構あって」と喫煙に対する懸念の声が増えてきていたと話す。さらにこういった声は働くスタッフからもあった。「カウンターの人がタバコを吸っているから、その人の前に立ちたくない」「タバコの臭いがつくのが嫌」などの意見が増え、荒木氏は段々と禁煙化について考えるようになったという。「ここ数年で喫煙者の数自体が減っているという実感もあり、禁煙化のタイミングを窺っていて。2020年4月の法律施行を機に禁煙化に踏み切りました。同じように法律の施行があったから、禁煙に変えられたというお店も多いと思います」
 気になるのは、禁煙化による客入りや売上の変化だ。とはいえ禁煙化してすぐに緊急事態宣言が発出されたため 「正直わからない」と話す。喫煙者からの反応について伺うと、「『タバコが吸えなくなったんですか?』と聞かれるこ ともあって。そういう人たちの1~2割は喫煙できないと知って帰っていきますね。嫌味っぽく『もう来ない』と言われたこともあります。これまで2~3杯お酒を飲んでいた人が1杯飲んで『吸えないからほかのお店に行く』ということもありました」と、やはり懸念していた事態も少なからず起こっているという。実際、店から徒歩2~3分の場所には全面喫煙可能な飲食店もあり「タバコを目的としている喫煙者はそちらに流れているのではないか」との見方を示す。
 そんな喫煙者からの声がありつつも荒木氏は「禁煙化して良かった」と、今回の自身の決断に納得感を示す。その理由について尋ねると「やっぱりタバコの煙に邪魔されることなく、もっと純粋に食事やビールを味わってもらいたい」という思いがあった。
 実際、禁煙化以前より来店していた非喫煙者の方が頻繁に訪れるようになったり、滞在時間が延びたり、よりよく使ってもらっているという実感があると話す荒木氏。働くスタッフからも「快適に働けるようになった」という声が聞かれ、改正健康増進法の目的であった「働く人の健康を守る」を達成できているようだ。

『フリゴ』の店長を務める荒木健一郎氏
店内にはベルギーを中心にヨーロッパのビールを常時160種類並び、専用のコースターとグラスでビールが提供される

「喫煙可能でも禁煙でも客足は変わらない」感染症対策も後押しとなり禁煙化(CASE2 福田バー)

『福田バー』 の店内。アクリル板を設置するなど感染症対策も徹底(写真提供:大阪医科薬科大学伊藤ゆり氏)
『福田バー』の店内。アクリル板を設置するなど感染症対策も徹底(写真提供:大阪医科薬科大学伊藤ゆり氏)

 禁煙化に転じた経緯は「法改正を機に」という飲食店が多い中、異なる理由で禁煙化に踏み切った飲食店もある。大阪・高槻で1991年に創業したオーセンティックバー『福田バー』だ。
 「大阪府から喫煙者は店内の一か所にまとめるよう要請があり、新型コロナウイルス感染の危険性が高まると感じ、全面禁煙に踏み切りました」と、感染症対策の一環で禁煙化したと店主の福田豊氏は明かす。実際、店舗の入口には「コロナ対策のために禁煙しています」という張り紙が掲示されている。
「いずれは禁煙にせなあかんと思っていたのですが、周りに気を遣いながら吸ってくれる常連さんもいて、なかなか踏み切れず。とはいえお店の構造上分煙も難しいし、タバコの煙が非喫煙者の方に行かないよう気遣うのも嫌で。今回のコロナ禍を機に2021年11月に全席禁煙にしました」
 オーナーからは「儲からないし、禁煙は反対」と言われたそうだが、ギャルソンやバーマンなど現場のスタッフからは「禁煙に賛成」という声が聞かれ、後押しとなったという。禁煙化と合わせ、アクリル板やビニールシートを設置するなど、感染対策も徹底。完全禁煙の飲食店は、こうした感染症対策に対しての自己評価も高く、自信を持ってお客さんを迎え入れているという見方もある。
バー業態は喫煙可能な店が多い中、禁煙に踏み切ったことでデメリットはなかったかと尋ねると「禁煙にする前ぐらいから喫煙者も2~3割に減っていましたし、特になかったです」と福田氏。

「タバコを吸う人とか、たくさん飲んで騒いだりする人の方がお酒も頼むので、禁煙にしたら売上はちょっと減るだろうと思いましたが、別にそんなのいいかなって。実際、禁煙にしてから『吸えないならほか行くわ』っていう人もいましたが、そういう人は別に来てもらわなくていいかな、と。もしお店に本当に来たいなら、1~2時間くらい喫煙を我慢してくれると思いますので」
 禁煙化後の客足も気になるが「タバコを吸う人がいっぱいいたら、吸わない人が来なくなるので、結局喫煙可能でも禁煙でも客足は変わらないと思う。サービスするならマナーの良い人たちにしていきたい」と福田氏。その真摯な姿勢は常連にも伝わっているのか、マナーの良い喫煙者は禁煙になってからも来店しており、外の喫煙所でタバコを吸うなどしてお店では喫煙していない。
 禁煙化はスタッフからも評判だ。「以前より快適そうに働いていますね。喫煙可能な時代は、スタッフがマナーの悪い喫煙者に注意しなくてはいけませんでしたが、そういったトラブル自体減ったので、スタッフの負担も減ったと思います」と禁煙化に伴い、店の風紀も良くなったと話す。『福田バー』の一連の対策は、感染症や受動喫煙から従業員や来店客の健康を守るだけでなく、トラブルを防ぎ、お店で過ごす人たちに安心・安全に過ごしてもらうための心がけにも思えた。

大阪・高槻のオーセンティックバー『福田バー』の店主・福田豊氏。

「吸う人も吸わない人も来てくれるようになった」大阪・天満の角打ちが禁煙にした理由(CASE3 稲田酒店)

稲田酒店の角打ちスペース。夕方には押し合いへし合いになる。
稲田酒店の角打ちスペース。夕方には押し合いへし合いになる。

 立ち飲みの聖地、大阪・天満の商店街に、地元の人に80年以上愛される酒屋「稲田酒店」(1942年に酒類販売業免許取得)がある。午後1時から開く隣の角打ちは夕方に満杯だ。
全国の銘酒が格安の小売価格で飲める上、出汁が染みた手作りのおでん(100円から)や、「鳥の玉ひも」「とらふぐ湯引き」(300円)などの酒に合う肴が呑兵衛を惹きつける。この角打ちが2020年4月の改正健康増進法全面施行のタイミングで禁煙にしてから3年が経った。
地元で生まれ育ち、50年以上呑みに通っているというイケダさん(72)は「自分も喫煙者なのに、僕は人の吸うたばこの煙は吸いたくないねん。禁煙になって快適よ。ま、わがままなんやな」と笑う。
 望まない受動喫煙を防止する改正健康増進法によって、屋内施設は原則禁煙、20歳未満は喫煙エリアに立ち入り禁止となったが、例外措置も設けられた。喫煙を目的とするバーやスナックは「喫煙目的店」(届け出不要)、改正前から営業している経営規模の小さな飲食店(資本金または出資の総額5000万円以下、客席面積100㎡以下)は「喫煙可能店」として申請できるのだ。

「禁煙化」は時代の流れ

 店主の稲田政秀さん(53)が、健康増進法改正のタイミングで店の禁煙に踏み切ったのは、「他の店も禁煙にするこのタイミングを逃すと、もう禁煙にはできないだろうな」と考えたからだ。世の中は禁煙の流れができており、屋根のある天満の商店街の通りも「屋内施設」とみなされ禁煙になることがわかっていた。
 従業員には20歳未満の学生もいて、喫煙可能なままにしていると店内で働かせられなくなるのも痛かった。
 「若い人はたばこを吸わないし、分煙が当たり前になっています。たばこを吸うのは今の時代、ジジイ、ババアぐらいだわね。時代が変わってきているのを感じていました」ただ、いざ禁煙に踏み切ってみると最初は客離れも起きた。
 「『ここ喫煙?』と聞かれて、『禁煙なんですわ』と言うと、『じゃあええわ』と帰ってしまう人もいる。でも昔からの常連さんは通い続けてくれたし、だんだんみんなたばこが吸えないことに慣れていきましたね」
 常連の藤井一宏さん(62)も店の禁煙化を歓迎する一人だ。元々焼酎派だったが、この店で美味しい日本酒が安く飲めるのにハマり、呑兵衛の友人と誘い合わせて来るようになった。多い時は週6日、少なくとも週2~3回は通っている。
 自身も長年1日にセブンスターを2箱吸うヘビースモーカーだったが、42歳の時に禁煙して以来、人の吸うたばこの臭いが大嫌いになった。
 「歩きたばこをしている人が前を歩いているのも嫌なのに、店内で隣の人が吸っているなんて耐えられない。日本酒の味も香りもわからなくなるでしょ。禁煙で煙がけえへんようになったのはすごくいいことですよ」と喜ぶ。

働く人も快適に

 改正健康増進法は、飲食店に来る客ももちろんだが、職場なので逃げようのない従業員の受動喫煙を防ぐことが大きな狙いの一つになっている。
 角打ちの料理や接客を取り仕切る店主の母、俊子さん(81)は、呑兵衛たちが飲み過ぎたら「もうやめとき」と叱り、男性客が女性客に絡むと「あんた、話しかけたらいかんよ」と注意する、店の母のような存在だ。酒や肴を出しながら店の隅々まで気を配り、お客さんが楽しめるように心を砕く。接客する時間も長いため、店内でたばこが吸えた時は煙を吸い込むことによる体の不調に悩んだこともあった。
 「最近はたばこの質も上がっているようですが、昔ながらの紙巻きたばこを吸う人がいると喉に引っかかるようないがらっぽさが続いて気になっていました。禁煙にしてから空気がきれいになって気持ちよく働けるようになりましたよ」と話す。
 何より嬉しいのは、「たばこの煙が嫌やから」と足が遠のいたお客さんがまた戻ってきてくれたことだ。「たばこを吸う人も吸わない人も来てくれるようになりました。禁煙にして良かったです」

客から「まーちゃん」の愛称で知られる店主の稲田政秀さん。店ではたばこも販売し、自身も喫煙者だ。
角打ちの接客を取り仕切る店主の母、俊子さん。
酒販の店舗(右)と隣り合う角打ち(左)に今日も呑兵衛が吸い込まれていく。

「他の店と差別化を図るために禁煙に」大阪・北新地のスナック「蟻地獄」の経営戦略(CASE4 蟻地獄)

禁煙のスナック「蟻地獄」のママ、旭瞳さん。
禁煙のスナック「蟻地獄」のママ、旭瞳さん。

 一度足を踏み入れたら、ママの旭瞳さん(35)の魅力にズルズルとハマっていく。大阪を代表する歓楽街、北新地のど真ん中にそのスナック「蟻地獄」はある。スナックとしては珍しく、店内を禁煙にしてもう6年が経った。「ここは3軒目に開いた店なのですが、地元の都島から新地に出てきた2軒目の時に、戦略的に禁煙にしたんです。新地に何のツテもないし、特徴や強みがないと生き残れない。新地で唯一の存在、一軒しかない店を作りたかったんです」

ご新規さんは「禁煙スナック」で集客

 望まない受動喫煙を防止する改正健康増進法が2020年4月に全面施行されたことによって、飲食店などの屋内施設は原則禁煙になった。
 だが、喫煙を主な目的とするバーやスナックは「喫煙目的店」、既存の小規模店は経過措置として「喫煙可能店」とすることができる。
 「禁煙にするのに勇気はいりました。昔から通ってくれるお客さんは外で吸ってくれるのですが、一見さんは禁煙とわかると帰ってしまう人もいる。『吸えたら通うのにな』と言うお客さんもいます。お酒とたばことカラオケってどうしてもセットになっているんですね」
 でもそのうち、スナックの案内サイトに『禁煙スナック』と謳っているのを見て、『禁煙だから行きたい』と訪ねてくれるお客さんが増えてきた。初年度から黒字を維持している。「今は新規のお客さんのほとんどは『禁煙』で集客しています。『たばこが嫌だ』という人を集める形ですね。多数派ではないけれど、『もうたばこで煙い他のスナックでは無理』と常連になってくれる人もいます」

「肺が悪いので」と紹介文に書く理由

 ただ、たばこを吸おうとする客に「外で吸ってください」と言うのは勇気がいる。社会的な地位やプライドが高いお客さんはなおさらだ。でもみんなに我慢してもらっているのに、その人だけ特別扱いはできません」自身のInstagramの紹介文には、「肺が悪いので禁煙です」と書かれている。「実はお客さん対策で書いているだけなんです(笑)。たまに『僕がおる間は貸切にするから店内で吸わせて』と言う傲慢な人もいる。その時に『すみませ~ん。私、喘息で』とか『肺が悪いので』と軽めに言うと、角が立たずに諦めてくれる。うまく断るための方便です」

流行る・流行らないは
吸える・吸えないとは関係ない

 実はお客さんの半分ぐらいは現役の喫煙者だ。たばこが吸えなくてもママや店の魅力に惹かれて通ってくれている。「一時的にお客さんが減ったとしても、その店が流行る・流行らんは、吸える・吸えないには左右されないのではないでしょうか? 美味しいお寿司屋さんだったら、みんなお寿司を食べる間ぐらいたばこは我慢しますよね?」「うちは低料金でもあるし、よそより絶対楽しいんちゃうかな。『お値段以上でニトリ』みたいなもんですわ(笑)。そこは、私も勝負をかけています」

自身も従業員もみんなで禁煙

 こうして自身の店を禁煙にしてみると、バーやスナック、狭い既存店を例外とする改正健康増進法の姿勢もおかしく感じるようになった。「大きなクラブなら天井も高いし換気もいいし、お客さん同士の距離もあります。でもバーやスナックはお客さんが密接していて横で吸われたら逃げようがありません。狭い店を例外とするのは、受動喫煙防止の目的から言えば逆なのではないでしょうか?」
 旭さん自身もかつて、1日一箱以上は必ず吸うヘビースモーカーだった。だが、店を禁煙にするのに合わせ、自身や従業員の女性たちも禁煙した。「一緒に店に出ている母が元々たばこ嫌いで、『お客さんが吸うのは仕方ないけれど、あんたたちは吸うな』とよく言っていたんです。考えてみれば美容への影響もあるし、店を禁煙にするタイミングで全員吸うのをやめました」
 自身も店も禁煙にしてみたら、体調が良くなったのも思わぬメリットだ。「禁煙してからめっちゃ元気になりましたし、声も違います。翌日の体の軽さとか、楽さが全然違うんです。ストレスなく働ける環境になって、禁煙にして本当に良かったと思います」

旭さんが好きなマリリン・モンローの写真が店内中に飾られている。
飾らない人柄がママの魅力。お客さんから「ひーとん」と呼ばれている。

ウィズコロナ時代の飲食店の感染対策

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起きやすい場として名指しされてきた飲食店。
対策緩和に舵が切られる中、今後も続けた方がいい対策とやめてもいいものが議論されている。
5人の感染症の専門家に検討してもらった。
(2023年3月現在)

エアロゾル対策で重要な「換気の徹底」

 新型コロナの主な感染ルートは、空気中を漂うウイルスを含む粒子を吸い込むことによって起きる「エアロゾル感染」が中心であることがわかっている。
 その対策として、専門家が口を揃えて「今後も続けた方がいい」と勧めるのが、「換気の徹底」だ。店の入っているビルで換気が機能しているか点検すると共に、店では二酸化炭素モニターを使って十分換気されているかを確かめた方がいい。
 聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは「二酸化炭素モニターで定期的に測ってみて、換気が不良なら換気設備の点検や空気清浄機を設置するなど改善を図る必要があります。『こまめに換気』というと時々窓を開けるというイメージですが、そういうことができない場所が多いです」
 席と席の間に置くパーテーションは、エアロゾルが空気中をしばらく漂うことを考えるとあまり意味がないという意見が多い。
 厚生労働省クラスター対策班で感染対策を検討してきた東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授の小坂健さんは、「飛沫が飛ぶのを直接防ぐ効果ぐらいはあるかもしれませんが、エビデンスはかなり限られています。むしろアメリカの学校でパーテーションを置いたら発熱者が増えたというネガティブな報告さえあります」と語る。

飲食店のパーテーションは科学的に意味はあるか、今後も必要か、専門家の意見の表

ほとんどやめていい接触感染対策

一方、ウイルスのついたものに触れ、その手で口や目などの粘膜に触れることで感染する「接触感染」はほとんど起きないと言われている。
 「テーブルの消毒」「共有して使う物品の消毒回数の増加」「ビュッフェでの使い捨て手袋の使用」「ハンドドライヤーの使用停止」「お茶出しやお取り分けサービスの中止」「トイレのふたを閉めて流すよう呼びかけ」については、多くの専門家は「科学的に意味がないし、やめてもいい」と口を揃える。

飲食店でのデーブル消毒は科学的に意味はあるか、今後も必要か、専門家の意見の表

 川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは「たとえば『飲食店でのテーブル消毒』は新型コロナにとっては あまり意味がありませんが、他の食中毒などには良い効果があると思います。今後も適度に続けてほしいですが、コロナ対策で必要かと言われるとあまり意味がないのではないでしょうか」と話す。
 逆に、接触感染対策としてこれからも続けた方がいいと専門家が一致するのは「こまめな手洗い」だ。坂本さんは「接触感染については、ものをきれいにす るよりは、手をきれいにする方が効率的です。コロナ以外の病原体も防いでくれますし、コロナをきっかけに手洗いをまめにするようになったなら続けてほしいです」と話す。

宿泊施設や飲食店などの入り口の手指消毒は科学的に意味はあるか、今後も必要か、専門家の意見の表

 入り口でのアルコールによる手指消毒については、科学的に合理性はあるとしながらも、今後も必要かどうかは見解が分かれている。
 小坂さんは「手指消毒はそんなにやらなくていいと思います。日本で手を通じて新型コロナが感染することはそれほど多くないでしょう。食事の前に手洗いすれば十分です」と話す。  京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんも続けることは無理だろうと考える。  「消毒をすること自体は合理的ですが、家族でご飯を食べに行って、消毒した後に家族同士でベタベタ触ったら何をしたいのかがわかりません。消毒後に誰と接触する から予防したいのかが明らかではない対策です。社会的な合理性や持続可能性は低いと思います」

ワクチン接種は基本のキ

 そして、科学的根拠があり、今後も続けた方がいいと専門家が一致したのはワクチンだ。飲食店の従業員も客も接種することが望ましい。

ワクチン接種は科学的に意味はあるか、今後も必要か、専門家の意見の表

対策緩和に積極的な浜松市感染症対策調整監で浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫さんは「『ウィズコロナ』やすべての対策緩和は、ワクチンを最新の状態にうっておくことが前提です」と話す。

協力専門家

坂本史衣さん(聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャー)
小坂健さん(東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授、医師)
矢野邦夫さん(浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問)
岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)
西浦博さん(京都大学大学院医学研究科教授)

詳細はこちらの記事をご参照ください。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/shiwake-aerosol
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/shiwake-contact-infection

クイズで学ぶ
改正健康増進法による飲食店の受動喫煙対策

「望まない受動喫煙」をなくすため、健康増進法が改正されました。
特に、たばこにより健康が害されやすい人(子どもや妊婦、患者など)、
業務に当たる従業員への配慮が必要となりました。
健康増進法による飲食店の受動喫煙対策について、
次の〇×クイズに答えてみましょう。

飲食店の受動喫煙対策○×クイズ
  1. 受動喫煙防止のため、すべての飲食店は「屋内禁煙」が原則である。
  2. 食事を提供する飲食店で、客席面積100m2を超える場合、喫煙専用室・屋外を除き、紙巻きたばこを吸うことはできない。
  3. 2020年4月1日以降に開店した飲食店では、客席面積100m2以下の場合、「全席喫煙可」として営業できる。
  4. 「全席喫煙可」として営業する場合、喫煙可能な設備に応じた標識を店頭に掲示しなければならない。
  5. 20歳未満の従業員による喫煙席での短時間の接客は認められている。
  6. 「加熱式たばこ専用喫煙室」は、飲食禁止である。
  7. 「喫煙目的店」として登録すれば、食事も提供する居酒屋は喫煙可能な店として営業できる。
  8. 喫煙専用室等の構造・機能についての基準が定められている。
  9. 法令違反者には、指導が行われ、なお改善しない場合には罰則が科される。

答えと解説

Q1

受動喫煙防止のため、すべての飲食店は「屋内禁煙」が原則である。

正解は〇です。屋内禁煙は、屋内での受動喫煙を防ぐ唯一の方法ですので、すべての飲食店が「屋内禁煙」を原則です。例外として、喫煙専用室の設置などがあります。従来から営業している飲食店の特例は、当面の間の措置ですので、「屋内禁煙」を目指した運営が求められています。(参考1:ポイント1 様々な施設において、屋内が原則禁煙となります)

Q2

食事を提供する飲食店で、客席面積100㎡を超える場合、喫煙専用室・屋外を除き、紙巻きたばこを吸うことはできない。

正解は〇です。資本金5000万円超または客席面積100㎡超の飲食店は、「屋内禁煙」としなければなりません。屋外に喫煙場所を設置する場合、トラブルを避けるため、屋内や近隣へご配慮ください。(参考1:ポイント4 既存の経営規模の小さな飲食店への経過措置について)

Q3

2020年4月1日以降に開店した飲食店では、客席面積100㎡以下の場合、「全席喫煙可」として営業できる。

正解は×です。2020年4月1日以降に開店した飲食店では、客席面積によらず、「屋内禁煙」です。2020年4月1日以前から営業している飲食店も経営状況の変化により既存の飲食店に該当しなくなる場合がありますので、ご注意ください。(参考1:ポイント4 既存の経営規模の小さな飲食店への経過措置について。参考2:Q&A)

Q4

「全席喫煙可」として営業する場合、喫煙可能な設備に応じた標識を店頭に掲示しなければならない。

正解は〇です。喫煙可能な設備を持った施設には、指定標識の掲示が義務付けられており、紛らわしい標識の掲示などは禁止されています。(参考1:ポイント6 喫煙室への標識の掲示義務について)

Q5

20歳未満の従業員による喫煙席での短時間の接客は認められている。

正解は×です。従業員を含め20歳未満の人は、喫煙エリアへは一切立入禁止です。また、年齢を問わず、経営者や従業員への受動喫煙防止対策も求められています。従業員の募集や求人申込みの際に、店舗での受動喫煙対策を伝える必要があります。(参考1:ポイント7 20歳未満の方は、喫煙エリアへは立入禁止に)

Q6

「加熱式たばこ専用喫煙室」は、飲食禁止である。

正解は×です。「加熱式たばこ専用喫煙室」では、飲食は認められていますが、厚生労働大臣が指定したたばこ以外の喫煙は認められていません。近年、加熱式たばこの有害性の報告が増えていることから、「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置には注意が必要です。(参考1:ポイント2 屋内において喫煙が可能となる、各種喫煙室があります)

Q7

「喫煙目的店」として登録すれば、食事も提供する居酒屋は喫煙可能な店として営業できる。

正解は×です。「喫煙目的店」では、食事の提供は認められていません。認められるのは、アルコール類とそれに沿える料理(主食を含まない)が原則です。(参考1:ポイント2 屋内において喫煙が可能となる、各種喫煙室があります)

Q8

喫煙専用室等の構造・機能についての基準が定められている。

正解は〇です。「喫煙専用室」等には、たばこの煙が屋内へ流出しないための技術的基準が定められています。基準を満たさない場合、罰則の対象となります。(参考1:ポイント3 たばこの煙の流出防止にかかる技術的基準)

Q9

法令違反者には、指導が行われ、なお改善しない場合には罰則が科される。

正解は〇です。義務違反には、まず「指導」が行われます。指導に従わない場合等には、内容に応じて勧告・命令等を行い、改善が見られない場合、罰則(過料)が科されます。(参考1:ポイント9 義務違反時の指導・命令・罰則の適用について。参考2:改正健康増進法における義務内容及び義務違反時の対応について)

ケムランは、屋内完全禁煙の飲食店を特派員が登録するウェブサイトです。

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コロナ禍の飲食店 受動喫煙対策Book

執筆協力:神戸大学・片岡葵(P.2-3)
株式会社シンクロ・フード(P.4 -7)
BuzzFeed Japan Medical 岩永直子(P.8 -13)
大阪大学・村木功(p.14 -15)
企画:屋内完全禁煙の美味しい飲食店を応援する会 Quemlin【ケムラン】
https://quemlin.com
大阪医科薬科大学・伊藤ゆり
デザイン・装丁:株式会社ガハハ

  • *この冊子は厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等 生活習慣対策総合研究事業「喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究」班(研究代表者・大和 浩)の研究の一環として制作されました。