感染症対策専門家による飲食店における感染症対策のノウハウ
和田 耕治先生(国際医療福祉大学)

日本の外食文化を守るためにも、
店と客ができることを積み重ねていく。
今後また宣言が再び出たとしても、
休業を余儀なくされることを減らしていけないか?

飲食店は新型コロナの感染予防の「キモ」として、対策が強化されてきました。
ただ「飲食店」といっても、リスクの程度は店の形態で大きく異なります。
政府の専門家会議メンバーを務めた国際医療福祉大学教授の和田耕治さんに、現場で取るべき対策や利用客の心構えを聞きました。(文中敬称略)

換気不十分な飲食店で集団感染

和田新型コロナが広まる中、「感染防止徹底宣言ステッカー」を貼ったり、保健所が指導したりと、地域ごとに飲食店対策が取られてきました。ただ、実質は店任せだったこともあり、実効性が乏しいまま、11月、12月の感染再拡大につながっていきました。

その後、飲食店を営む方々からお話を伺う機会がありました。なんらかの予防策を講じてはみたが、「正直、何を参考にすればいいのか分からなかった」という声が出ていました。「飲食店」といっても形態は多様なのに、それに応じた手引きが十分でなかったことが、実効性が低かった一因かもしれないと思いました。

感染予防策は店の形態でどう異なるのでしょう。

和田ラーメン屋や牛丼屋など、大半が個人客で滞在時間も短い店は感染リスクが比較的低く、接触箇所の消毒や衝立などを置けば、たいていは事足ります。対して、長時間の会話や飲酒を伴うような店舗は、感染リスクがグッと高まります。空気中を漂う微粒子のマイクロ飛沫による感染予防、特にこまめな換気が欠かせません。

マイクロ飛沫に関しては、東北地方の飲食店で昨秋起きたクラスタの発生事例が参考になります=下図。

市街地N店での空調の風の流れと感染状況
加來 浩器. アウトブレイク調査のススメ(第2版)2021.( 出版:防衛医学研究センター)より

図を見ると、思った以上に広がっていますね。

和田調査によると、来店したグループ客の中に、症状が出ていない感染者1人がいたそうです。この感染者の頭上にあったエアコンの送風を通じてマイクロ飛沫が店内に広がり、ほかのテーブルやカウンターに座っていた客や厨房の店員も感染したと見られています。この店の換気は十分ではなかったようです。

エアコンの送風は室内の空気をただ回しているだけで、「換気」にはなりません。この点を注意し、きちんと換気したり客数を調整したりして、二酸化炭素の濃度をできるだけ1000ppm未満にしておくことが、クラスタを作らないという点で重要です。

換気がきちんとできているかを把握するには、二酸化炭素の濃度計が便利です。5千円から1万円程度で手に入ります。お客さんがいる時間、店のあちこちで濃度を計り、空気がよどみがちな場所などを把握しておくといいでしょう。換気状態の「見える化」にもなり、お客さんにも示しやすくなります。

「個室は全面NG」という誤解

和田飲食店を営む方々からは、「自分は静かに食べている。騒いでいるあのグループ客をなんとかしてくれ」と苦情を言う個人客と会話に盛り上がるグループ客の間で板挟みになるという話も伺いました。会話を控えてもらうなど、地道な努力を重ねていくしかありませんが、こうした風景は、受動喫煙対策が本格化する少し前に喫煙者と非喫煙者の間で起きていた状況と、よく似ていると思います。

グループ客は個室に通すなど、個人客とうまく分けることもできるかと思います。

和田ただ、現場ではそうした視点がきちんと伝わっていないようです。ある飲食店の方からは「個室はとにかく『悪』だと思っていました」と言われました。狭い個室でなく、広い店内で距離を取って座ってもらったほうが感染しにくいだろうと思っていたそうです。

こういう場合、同一グループ内よりも、他グループへの感染防止をまず優先すべきと考えて対策をとってください。そう考えると、個室の活用も来店客をうまく分ける方法の一つになります。

状況に応じた工夫が必要ですね。

和田そうですね。例えば、カツ丼屋さんの取り組みがテレビで紹介されていました。お客さんの集中を避けるため、ピーク時の12-13時はメニューを少し値上げし、他の時間は少し値下げしているそうです。価格変動によるインセンティブをうまく使った例です。

また、マナーを呼びかけるポスターや独自の「指数」で、利用客に対策を届けようとしている店や団体、自治体もあります。

私が協力している自治体の商工会では「料理を楽しみ会話を控える」「大声で騒がない」「体調が悪いときは帰宅」などと来店客に呼びかけるポスターを作り、近く加盟店舗に貼るそうです。市町村や地元の商工会単位だと、地域の実情に応じたきめ細やかな取り組みも可能になります。

ある大手小売り企業では、二酸化炭素の測定濃度や収容人数など数項目に基づいた「三密指数」を一部店舗のフードコートで始めています。緊急事態宣言の最中でも安心して飲食店を利用してもらおうというのが、その狙いです。

北九州市は、地元の産業医科大学や北九州商工会議所と連携し、「新型コロナウイルス感染対策の手びき」を作成しました。より具体的な対策を取りたい店は参考になさってください。

感染予防で、客も店を応援

頑張る店を応援したいお客さんは、多いと思います。何ができますか。

和田おっしゃる通り、店が講じる感染予防の効果がしっかりと出るように、私たち利用客も協力することが重要です。

マスクをつけて、大きな声でしゃべらない。グループも少人数にとどめ、長くても2時間以内に店を出る。また、店から予防策のために求められることには快く協力したいものです。

手ごろな値段でおいしい食事ができる日本の外食文化を守るためにも、店と客ができることを積み重ねていく。そうすることで、今後また宣言が出たとしても、休業を余儀なくされるようなことを減らせないでしょうか。

ケムランのように、対策を十分講じている店を「応援視点」で前向きに評価できないかと考えています。

和田それはよい考えですね。お客さんの体調を入店時に確認しているか、換気をこまめに行っているかなど、いくつかの項目を立ててチェックするといいと思います。こうした客視点での評価がまた話題になれば、そういう視点で店を評価しようという人が増え、店の対応のさらなる改善にもつながっていくと期待しています。

プロフィール

和田 耕治(わだ・こうじ)

国際医療福祉大学医学部
公衆衛生学・医学研究科教授

1975年、福岡県出身。産業医科大学医学部卒業、マギル大学産業保健学修士、北里大学大学院博士課程修了。北里大学医学部公衆衛生学准教授などを経て2018年4月から現職。2020年6月まで、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議や、厚生労働省クラスター対策班に参画。