民間グルメサイトデータから見た飲食店の感染症対策と受動喫煙対策
村木 功先生(大阪大学)

「感染対策を万全にして、楽しく飲食しよう」
「飲食店に協力しよう」という機運を高めていきたいですよね。

新型コロナウイルスの蔓延により、飲食店はいままで以上に感染対策が求められています。
実効性の高い対策をどのように進めていけばよいのでしょうか。
民間のグルメサイトのデータを分析するなど研究を進めてきた大阪大学大学院医学系研究科助教の村木功さんに話を聞きました。

民間グルメサイトのデータ分析をしようと思ったきっかけは何ですか?

村木飲食業界では、外食業やバー、いわゆる接待を伴う飲食店など業態別に感染拡大予防のガイドラインが業界内でつくられていますが、どのぐらい遵守されているのか十分に実態が把握されていません。そこで、民間のグルメサイトを対象に、感染対策の実施状況を分析してみることにしました。

分析でどんなことがわかったのでしょうか。

村木感染防止対策にどれぐらい取り組んでいるのか、チェック項目が30と多い民間グルメサイトの、約5万2000店のデータを分析しました。消毒液設置の有無などの接触感染対策、従業員のマスク着用、テーブルやカウンターの仕切り設置などの飛沫感染対策、入店時の検温や体調不良者への自粛声掛けなどのリスク管理と分けて考察してみると、飲食店の皆さんはできる範囲で対策をしていただいているのですが、とりわけ飛沫感染対策に苦労されていると思われました。

具体的にはどんなところでしょう?

村木飛沫感染対策では、従業員のマスク着用のように店舗主体の対策は進んでいても、利用者主体の対策は十分に実施されていませんでした。また、テーブルやカウンターの仕切りや個室の換気設備などは、設備投資がかかるためか、実施率は高くありませんでした。

接触感染対策では、不特定多数が触れる場所の消毒や従業員の手洗いなどはほとんどの店が実施しています。リスク管理面では、体調不良者への自粛呼びかけ、入店時の検温の実施などがなかなか徹底できていないようでした。

利用者主体の対策、とはどんなことですか?

村木注目しているのが、食事中以外のマスク着用ですね。一部の店では、掲示などで案内をしていますが、お客さんへの働きかけはトラブルの原因となったり、売上減につながったりする心配からか、進んでいません。政府などから「マスク会食」の呼びかけがありましたが、例えばママ友や職場の同僚同士でのランチなどでみると、店に入って席に着いた途端に、皆さんマスクを外しておしゃべりを始めているのを見かけます。話がはずむと自然と声も大きくなるので、食事前後でのおしゃべりでマスクを着けているのといないのとでは大きく違います。「4人まで」にしていたり、「深酒せず」にしていたり、利用者も全然気にしていないわけではないですが、逆に対策をしている「感」になって、一番大事なところを忘れていないかが気になります。

店からの声かけは難しそうですね。はり紙などのメッセージで対策になりますか?

村木人から言われれば「あ、やらなくちゃ」となりますが、はり紙は「はってあるね」で終わりになるような気がします、書き方次第ですが。ただ啓発も「さじ加減」で、あまりしつこく言われると、その店から足が遠のきますね。常連さんが多い店なら、店側と客同士の信頼関係のなかでできるような気がしています。客同士で声かけもできますよね。

過去の飲食店でのクラスター発生例に学ぶところはありますか?

村木例えば席の位置です。テーブルに向かい合って座っていて感染が広がった例がありました。ただ、他のテーブルには広がっていませんでした。また、カウンター式のお店の場合は、同じ方向を向いた席で隣に座った人は感染していないのですが、少し離れていたけれど対面する位置にいた人は感染し、カウンター内のスタッフも感染していたという例がありました。マスクはつけていませんでした。

そういう例から学ぶことは、これから症状が出る感染者が会食メンバーにいた場合、同じテーブルの人は感染する可能性があるのだと考えるしかないな、ということですね。

接待を伴う飲食店などはどうでしょうか。

村木利用客の特徴があって、「はしごする」人がいるんですよね。立ち寄り先が多く、大きなクラスターをつくるきっかけとなっているようです。日中にカラオケを楽しむ「昼カラ」店でも同じことがいえて、通常の飲食店とは違う状況が生まれていますね。そういう感染リスクの上昇は勘案したほうがいいですね。グルメサイトのデータ分析では、接待を伴う飲食店ではありませんが、居酒屋やバーのようなお酒の提供が多いような飲食店で、入店時の検温や体調不良者の確認などのリスク管理を頑張っている傾向がありました。
ただ、これから症状が出る感染者はリスク管理の網をすり抜けてしまうので、感染防止対策が偏らないように注意が必要ですね。

この1年間、時々外食するなかで感じることは、飲食店の座席の使い方の変化です。「×」印をつけて座れなくしている店もあれば、4人がけの席に2人しか着席させない店もあり、密にならないように気をつけていますね。

村木海外では座席の割合に「何十%まで」と上限をつけている国もありますが、日本は店任せですね。席の間隔をきちんと取るところもある一方で、店の構造上難しいところもあります。特に、小さい店だと構造上の制約が大きいです。日本では飲食店の営業時間を短くすることを重視して感染対策としていますが、ランチタイムに密になってしまったら意味がないですね。職場での上司や経営側の判断にも関わってくるかもしれませんが、感染防止対策として昼休憩をピークタイムからずらして取るなどの工夫をするのも今後の課題となるかもしれません。

換気対策は進んでいますか。

村木データ分析結果では、まだ進んでいない飲食店が多いです。店の構造上、開けられる窓がある飲食店は多くありません。ただ、小さな店では、厨房の換気扇が強力なら、玄関を空けているだけでも十分に換気ができている場合があります。大きい店だと換気扇は厨房だけでは足りません。数十万円以上の費用が必要で、すぐの導入は難しいでしょう。

昨春は、ちょうど改正健康増進法の完全施行のタイミング。禁煙対策はどうですか。

村木タバコを吸う行為は、マスクの着け外しが必要になるため、感染リスクは増しますよね。人が密集した喫煙所では知り合いとおしゃべりして感染リスクが高まるという指摘も専門家からあり、飲食店でも感染対策の一部として禁煙対策を考えてみるといいと思います。

神経を使う場面が多いですね。逆に、気を遣いすぎないでいいところはありますか。

村木普段一緒にいる家族でなら、感染対策をしている飲食店には行っていいと思います。感染リスクは家庭内感染とほぼ同じですから。1人で食事に出るのも問題ありません。気をつけるのは、普段一緒にいない人と食事をするときですね。

なるほど。相手次第ということですね。

村木飲食店は決して「悪者」ではないし、外で食事をしたい気持ちはみんなあると思います。店側の努力とともに、利用する側も、「感染対策を万全にして、楽しく飲食しよう」「飲食店に協力しよう」という機運を高めていきたいですよね。

プロフィール

村木 功(むらき・いさお)

大阪大学医学系研究科公衆衛生学助教

1981年、新潟県出身。筑波大医学専門学群卒業、大阪大学大学院医学系研究科予防環境医学専攻博士課程修了。 北見赤十字病院、大阪がん循環器病予防センターなどを経て、2017年から現職。専門は公衆衛生学、疫学。